イーグルス時評6 #2022.08.19
イーグルス史上最強のエースはそれでも三振を獲りに行く!
ー則本昂大の投手人生ー

基本情報
則本昂大 のりもとたかひろ K-
1990年12月17日生 31歳
身長178cm 体重82kg 公表
投手 右投左打

2012年 三重中京大学からイーグルスがドラフト2位指名、入団。
2013年 田中将大などがいる中、新人で開幕投手になる。この年は15勝を挙げイーグルスのパリーグ優勝に貢献。日本シリーズでは新人ながら第1戦で先発するなどイーグルス初の日本一に大きく貢献し、パリーグ新人王獲得。
2016年 4年連続開幕投手を務める。
2017年 8試合連続2桁奪三振のNBP記録を樹立。
2018年 5年連続奪三振王となるが、右肘を痛めてオフに手術。イーグルスと7年契約し生涯楽天宣言。
2022年 自身7回目の開幕投手を務める。

高校時代は甲子園出場などの経歴はなし。大学は三重中京大学で正直野球の名門とは言えない大学に入りエースとして活躍、三重学生リーグ時代からその剛速球をもって「三重中京に則本あり」と言われていた。リーグ通算成績は33勝0敗防御率0.56と圧倒的なものであった。因みに同大学は則本の卒業とともに閉校となる。つまりアマ時代はほとんど表舞台に出てこない投手であった。ドラ2指名は則本の実力を正しく評価していない縮図であろう。しかし入団して間もなく当時の星野仙一監督が目を付け1軍帯同はおろか2月キャンプ中に「開幕投手は則本だ!」と言い放つ事件?が起きる。全国的にはまだ無名の則本をあの星野が指名するのだから世間は驚いた。そしてその言葉通り開幕投手になり、惜しくも敗戦投手になるがその年見事15勝をあげイーグルス優勝の立役者の一人となったのは皆の知るところだ。

さて則本についてはどんな投手かと訊かれて答えられないイーグルスファンはいないはずだ。打者に対して強い闘志を全面に出したまっすぐ主体の投球スタイルは強くファンを魅了する。そしてたとえ球数が多くなろうとも三振にこだわるダンディズム。意識して三振を奪う投球は無駄があることは百も承知でしかしながら本人、ファンは勿論同チームの選手だけでなく相手チームまで、果ては監督を含めた首脳陣までその美しさは深く陶酔させるものを持っている。平成の奪三振王は彼なのである。ここで則本の今までの成績を振り返ろう。

引用:NPB.jp 日本野球機構HPより

数字的にやはり目にして一番気になるのは、2019年に2桁勝利が途切れたところ。この年は右肘の手術の影響でキャリア最低の12試合5勝に終わっている。数字に著明に出たのはその通りだが、実はきちんと生で観戦していると気づくことがある。その前年までつまり2014-2018年まで5年連続奪三振王であったことは印象が強いファンが多いであろうが、ちょっとニッチな数字、三振奪取数/被本塁打数比を観てみよう。これは一般に三振を多く獲る投手はいわゆるポカ球、好投していても突然HRを打たれることはよくあるものでそれで調子ががくっと崩れたりする。則本は結構典型的で好投していてもポカっと一発打たれるなあという試合が多い。そこでこの数値。勿論値が高い方がポカ球が少なく三振が獲れる投手ということで評価がよい。2014年以降で列記すると14.6→15.3→18.1→20.2→10.3→9.6→8.1→8.4となる。この数値は様々なバイアスがあり単変量解析だけでは事実と異なる可能性があることは百も承知で言えばほぼ私の観戦した時のイメージと合致している。つまり5勝に甘んじる2019年の前年2018年、5年連続の奪三振王を獲得した年から半減していることに気づく。よく数字を観ると奪三振数は187で多いが被本塁打数も18と最多であるので、ということはいかにポカ球が多くなったか分かるだろう。その後一桁に低下し続けるので近年のイメージはHRを打たれる投手になったということだ。とても哀しい結果だが受け入れざるを得ない。

でも、である。まっすぐで勝負が出来て三振が獲れるかっこいい投手、文頭の略歴から分かる通りイーグルスの球団史でエースと言われた岩隈や田中将大と比較して十分勝っている数字である。特に開幕投手選出回数と奪三振王については他の追随を許さずで、最高のエースと言える。プロの投手なのだから、凡人にはマネ出来ない観客を魅了する投球が絶対条件であり奪三振王則本はプロ的な投手なのである。プロなのだから視た感じも大切で前述の岩隈、田中は身長がそれぞれ公表191cm、188cmとエースにふさわしい体格なのに対して、則本は公表178cm、一般人と比較すると大きいがプロアスリートしかもエースとなれば小さい。因みに私の記憶では以前公表176cmと私と同じであったように想う。そしていつも観戦していて私よりやや小さいのではないかという感覚があるが未確認情報ですみません。それでも奪三振王なのである。そこに則本の凄さが凝縮されているようである。

今年の投球を観ていると、あるいは発言からは三振にこだわる姿勢は感じられなくなったし、上表では14試合登板で奪三振66だから以前の年から比較するとその倍くらいが年間奪三振数つまり132程度という平凡な数字になってしまう。願いわく「それでも三振にこだわって欲しい」のだよ。実際に三振獲れなくても獲りに行くのだという則本の打者に向かっていく投球に私たちファンは絶対的に惹かれるのである。則本の心中には彼が以前むき出しにしていた本能の炎がまだめらめらと燃えているのではないかと期待してしまうのは私だけではないはずだ。

院長ノート 2022年08月19日