イーグルス時評3 #2022.05.18
びっくすたあぶるうす
―浅村栄斗の凄さとテンダネスー

基本情報
浅村栄斗 あさむらひでと K possibleA
1990年11月12日生 31歳
身長182㎝ 体重90㎏ 公表
内野手 右投右打

2008年大阪桐蔭高校からドラフト3位でライオンズ入団。
2011年からレギュラー定着。一塁手から左翼手が多かった。
2013年初の打点王。
2014年二塁手としての出場が多くなる。大きな故障あり。
2018年キャリアハイの打率.310本塁打32打点132の成績を残しFAでイーグルスに移籍。
2019年、2020年はそれぞれ33本、32本の本塁打を記録。本塁打王に輝き名実ともにイーグルスの最強打者。
2021年は本塁打18本と前年から大きく減らしてしまい期待を大きく裏切る。

何はともあれ歴史に残る好打者です。後で怒られるから先に明言しておこう。今まで打点王2回本塁打王1回他数々の冠を引っ提げてイーグルスのno.1日本人野手である。外国人が入るとまたややこしくなるし、NPBの場合は比較評価は難しいが敢えて外国人を入れてもno.1ですよ。勿論評価にあたって幾つかの因子で検討するわけであるが、まず守備。プロ入り後内野全ての守備を経験しているし、外野もやったユーティリティー屋さん。高校時代は遊撃手だがプロ入り後は一塁手、二塁手でゴールデングラブ賞1回ずつ獲得。全てのポジションで通算の守備率は.99だ。数字に表れないところで、現在の二塁手で観ててもポジショニングの妙。二塁手はこれがないとね。浅村本人の感覚であろうが打者毎は当然のことだが一球ずつ少しずつ位置を変えてそれがセンスがよいため球際に強い。特に一二塁間の打球に対し好プレーが多い。他の二塁手より深く守れる。したがって、守備範囲が見た目以上にかなり広いということだ。

走塁は近年はさほど目立たないがライオンズ時代は結構盗塁も多く、20盗塁の記録はないが10個台は複数あり。守備での動きを見ても足は十分速い選手。

さてメインの打撃部門である。

今までの成績を述べると打率は時々3割を超えて、打点王2回獲得が示す通り得点圏打率が高くチャンスに強い打者である。本塁打については、近年30本を超えることが多くなったが、20-30本くらいが多い。ライオンズ時代の2013年の初の打点王の時くらいから、ライオンズは浅村次第と言われた。実際に翌年大けがで出場機会が減るとチーム成績がダウン、復帰後成績はよくなるのはデータが物語るところ。本人は以前より中距離打者を自認していたが近年具体的には2018年から打球を遠くに飛ばすべくメジャーリーグ流アッパースイングにフォーム改造した。本人曰く右肩を下げるようにしたと。それから3年連続本塁打は30本を超えているから成功しているかのように見えた。過去形に注意。これで中距離打者ではなく長距離打者に変身したのですよ。恐らく周囲の多大なる期待に応えての変身ですね。

浅村打撃論はゴルフスイング理論に置き換えると酷く分かりやすいのです。ゴルフ理論にも長けている諸兄は理解しやすいと思います。つまり回転軸を右側に傾けたということだ。つまりアッパーになる。今どきのドライバーの打ち方です。野球好きの輩ならさあ想う人もいるはず。あれっ?アッパースイングは駄目だよと少年野球教室では指導されたよね、プロ野球の解説者もアッパー駄目駄目強い打球が飛ばないよと言ってたよねと。

貴兄の記憶は間違っていないよ。その通り!アッパーは基本的には駄目だった。基本はね。

ゴルフだってそうだった。ダウンブローが基本で小さいヘッドのドライバーはアイアンと同じに打つ。すなわちダウンブローの延長で、まあ違うとすればボールの置く位置が中心より左に置く。しかるにアイアンと同じに打ってもレベルかアッパーになるんだよというのが以前のゴルフ理論。

今はちょっと変わってきた。

ドライバーが大型ヘッドになりダウンブローしにくく、いやしない方がよく飛ぶ。シャフトがカーボンで進化したため、更に飛ぶ。大きなヘッドはアッパーでどかんと打って低回転、中から高弾道で飛ばしなさいとくる訳です。でもねそうするとドライバーとアイアンの打ち方が違うよとなってゴルフスイング理論の1つの深ーい泥沼にハマる。

私がまさにそうだったよね。

おっとっとゴルフ理論の話ではないので浅村の打撃の話に戻そう。

野球の打撃でのアッパースイングはメジャーリーグの強打者あるいは強打者ばかりの打線が皆やっている理論的?スイングだ。理想形は浅村が打席に入る直前にルーチンでやっているので印象が強いよね。あのスイングは昔は邪道であったし、強い打球は打てないよと言われた。しかしながら現代野球戦術においてはとてもとても重要になったのだ。特筆すべきは戦略でも個人技術論でもなく、いやなくはないが戦術なのである。

どんな戦術なのか。

今のメジャーリーグでは、2番最強打者更には1番最強打者という考えの監督が多くなった。少なくとも4番最強は「登場が遅い」のだ。1点でよいから初回に点数を奪った方が圧倒的に優位という考え方である。そのためとにかく単打や二塁打ではなく本塁打を狙う。送りバントは勿論メジャーではないけど、そんな複数の単打を重ねる確率をとる作戦よりも1本本塁打が出る確率の方が高く、先取点が勝ちに繋がる確率が高いという作戦だ。以前は1、2番打者が出塁して3番最強打者説というのが有力な時代もあった。日本においては3番バースやブライアントなどがそうだった。実はON時代ですら王が最強打者だから3番、長島はその後まで走者が残った場合の更なる盛り上げ役イコール4番トリックスター説である。最近はレベルの高い投手は技術が格段にあがりそう簡単に連打ができない。であれば不安定要素が強い立ち上がりの1回に確実に回ってくる打順に本塁打を打てるバッターを入れちゃって1点でももぎ取る。その後の展開はあーとーで(つまんないなあかどうか?)、ということになる。だから筋力ぶりぶり付けてアッパーで本塁打だけを狙う。先取点を奪う。

打の延長が本塁打なんて考えないでスタンドインだけを狙うのである。

で、イーグルスの打順の話をするとメジャーリーグ方式に純粋に准じると2番浅村ありなんです。実際に2番に入ったこともあったが、実はあまり点数に結びつかなかったし勝てなかった。そんで3番。アッパースイングは元々貧打問題を抱える今のイーグルス打線にとっては必須で、浅村が長打を打たないととにかく得点力が低い。今年は西川というスピードスターが1番に来たからね、そして4番にはトリックスター島内が居座ることを考えると2番ではなく3番に最強打者浅村を置く。石井監督はよく考えられているとは思う。

しかし、なんである。

1番西川は幾つかの問題があることを第1回時評で書いた通りだ。彼が1番では2番打者が呪われる。実際山崎は今シーズン生殺し状態になってしまっている。そして西川の「ノーテンダーFAに対する怒り爆発による大活躍」もそろそろ右肩下がりである。今のところ2番打者問題は顕在化していて、調子がよかった黒川も2番に入ったら何と借りてきた猫状態だ。今は西川、黒川、浅村と当たりが止まったトリオで11連勝の後のつけを払ってます状態。勝てるわけがないですね。

さてさて。浅村個人の話をしよう。

現代野球戦術、チーム事情により3番アッパースイングの浅村は元々自分は中距離打者で本塁打はあくまでヒットの延長だと言っていた。それをむきむき肉体改造をして打席に入る前の素振りで理想形のアッパースイングを2回してから打席に入る。つまり自然体ではなく、あくまで矯正なんですよ。実際昨年本塁打をあまり打てなくなった時は悩んでいたと思うが、本来のレベルスイングに戻っていた。今年の春先に本塁打があまりでていなかったが、全てレベルからむしろダウンスイングだ。そうするとせいぜいと言っては失礼だが左前打までの打球になっている。素振りは超アッパー、そしてボールを打つのは実際にはレベルスイングでは、自分がやろうとしていることとやっていることが乖離していて打率はあがる訳ないし、本塁打は出ないんです。そして4月末から本塁打を打てるようになったのだが、これでは本数はなかなかイケないだろうねというところだ。浅村は元来右打ちの技術が非常に卓越している。確かにその延長で本塁打になることが多く、半分は右方向への本塁打である。しかも山本浩二や清原、落合の右方向に狙う本塁打とは打ち方が全く違ってあくまでヒットの延長なのである。しかし今年は現在本塁打6本のうち右方向が5本、つまり「あと4本左方向が足りない」と考える。このままではやはり本塁打は増えないのである。

ではどうしたらよいだろうか。

私個人の私見では(失礼!この時評は全て私見だが)、自然な姿に戻って本来のレベルスイングで打つことに専念すればよいと思う。浅村は素晴らしい打者であり、元のようにヒットの延長で本塁打は出るだろうし上記乖離を抱えて悩んでいるよりは少なくともメンタルはすっきりして試合に臨めると思うがいかがなものか。悩みを抱えている打者は思いっきり振れないものだ。そしてイーグルスにとって打順の再考は今日日必須事項になっている。

頑張れ、浅村栄斗!