イーグルス時評4 #2022.06.01
アミ族の繊細なエースはどこに向かうのか?
―宋家豪の資質開花と豊富なスタッフ内での難しい位置づけー

基本情報
宋家豪 そんちゃあほう K-
1992年9月6日生 29歳
身長185cm 体重92kg 公表
投手 右投左打

2015年 台湾国立体育大学から台湾ドラフト2位で統一ライオンズが指名するも入団拒否、同年10月イーグルスと育成選手契約を結ぶ。
2017年 一軍デビュー。マリーンズとの最終戦で4者連続奪三振を記録し、剛球投手の片鱗を魅せつけCSベンチ入りする。救援投手として活躍。
2018年 一軍に主にセットアッパーとして定着する。
2021年 キャリアハイの63試合登板24H、3勝3敗防御率2.23の成績を残す。

アミ族というと私らの年代以前の日本人は高砂義勇隊の中村輝夫を想起すると思うが、実はアミ族と日本プロ野球との関わりは非常に深いことが一部のマニアには浸透している事実である。古くは戦時中南海軍時代の首位打者岡村俊昭はその後フロントとして特に名物スカウトとして有名である。比較的記憶に新しいところでは、陽輝勲らの陽3兄弟、郭源治、陳義信、黄志龍などはアミ族出身である。

現代プロ野球では、いわゆる投手分担制で先発は100球前後まで6-7イニングを目途に投げ抜く、その後勝っている試合ではリリーフ3人を準備してそれぞれ1イニングずつ分担する。原則イニング跨ぎはなし。そんな原則がある。メジャーリーグでは比較的早く導入されていたが日本では2020年シーズンがコロナ禍で開催してから特に明確化してきたところだ。このシーズンでは感染防止策として延長戦なしになったこと、またペナントレースが遅れて始まったことによりほぼ全ての週が6連戦で予定されたことにより先発投手は週1回中6日で100球が徹底された。リリーフ陣の負担はそういう点では大きくなったということだ。

さて宋家豪である。恵まれた上背から投げ込まれる最速156kmのまっすぐは圧巻で威力十分だ。上背だけでなく横幅もありマウンドでは全体的に大きなイメージで存在感あり投手としての資質を感じる。2018年以降は実績を重ね、いわゆるラストスリーを勝ち取ってきた。現在台湾ビッグドリームを現実化した一人である。因みに今年の年俸は推定1.1億円で契約改更の際に号泣していたのは記憶に新しい。台湾人の感覚では日本人の5倍程度はあるので日本人でざっと5億円稼ぐくらいの感覚であろう。

今年は家庭の事情で一時帰国があり春先出遅れたが、その後順調にコンディションを整えて1軍に参入する。そこであれっと思ったはずだ。俺はいつ投げるの?と。復帰した時は既に安楽、ブセニッツ、松井の3人が確立していたからだ。リリーフだとするとあとは「勝たない」試合の中継ぎ、つまり若手の登竜門的な、あるいはベテランの調整的なポジションである意味最も重症度が低い仕事である。昔は敗戦処理と言われていたところだ。勿論イーグルスのラストスリーは毎年少しずつ編成を変えている。昨年は宋、ブセニッツ、酒居、松井で回していた。本命は宋、ブセニッツ、松井の3人であったが、ブセニッツが前半戦極度の不調に陥り、代わりに酒居が入ることが多かった。また昨季は安楽がリリーフでの才能を魅せ始めた。当初ランナーを背負ってここはどうしても点数を相手に与えられない時の「ピンチピッチャー」をほぼ全て請負い、その後ラストスリーに名を連ねてきたのだ。そうイーグルス救援陣は現在とても厚いのである。

今年は実は酒居も出遅れたため、現在の布陣になる訳であるが最近ブセニッツが故障したので宋もしくは酒居、安楽、松井となっている。つまり昨年あれだけ活躍していた宋はまだ安定した地位を築いておらず、上述の5人でラストスリーを競うという厳しい状況なのである。故障や不調の場合は交代要員が常にいる状態でイーグルスの救援陣は12球団一とも言われているが、当の本人達は常時プレッシャーの中で出番争いを続いていかなければならず、結構それはそれは落ち着かないメンタリティーだ。

そのような今季、宋はどのように自分の居場所を確保していけばよいのだろうか。幾つかの実は意外とシビアな問題が残る。まずは、宋は大きな身体で威風堂々の存在ではあるが性格はかなり細かいかつひどく優しいことが知られている、小さいけがやちょっとしたコントロールの乱れが気になり不調になるのはざらで、一昨年の不調は故障などではなくコロナ禍での野球環境に対するメンタルの乱れが強かったと伝えられた。今年の春先の帰郷についてもどうもその辺りが強く影響しているようだ。また他人に優しく後輩の王への熱心な指導ぶりはよく知られるところだ。このような宋が実力実績は十分としても5人からラストスリーをもぎ取っていくのは無理とは言わないまでも厳しいのではないか。あるいはよしんばラストスリーに入っても活躍できない可能性が高いのではないかなと勝手に危惧してしまうのは私だけではあるまい。

次。出自の問題がある。人種差別問題などではないことを先に名言しておこう。ただどうしても日本人は日本人ひいきになりやすい。そして外国人では次欧米人そしてアジア人のスタンスが現在でも一般的になっている。勿論個々人の価値観や考え方によって様々であるが、台湾人はどうも概して評価が低くなりがちなことだ。宋の風貌はいかにもアジアンなのである。我が家は上記嗜好?はないので、次男は宋の豪快な投球の大ファンであるし、ミーツ―なんであるが。そうすると松井は別格として同等の実力が発揮できる状態なら安楽、酒居を重用してしまう傾向が出てこないか懸念している。

三つ目であるが、果たしてリリーフでよいのかというかなり根本的な問題だ。元々台湾ナショナルチームなどでは先発していたし、あの体格と威力十分のまっすぐをみると何だよ先発でいけるんじゃないの?と思う人は少なくないはずだ。かくある私もずっとそう思っている。噂では本人が長いイニングを投げるのが苦手とかでリリーフを熱望しているらしい。現在イーグルスでは先発陣はまた充実していて田中、則本、岸、涌井の500勝カルテットの他瀧中、早川で既に6人ではある。しかしカルテットは特に岸、涌井については年齢的に既にフルシーズンローテ入りは厳しい限りだ。涌井は先日故障してしばらく戦線離脱を余儀なくされたところ。他の投手だって何かしら故障や不調はあるものでとうていこの6人でずっと行ける訳はない。先発できる投手でしかも一軍実績があるのなら是非是非先発して欲しいところである。今一度宋の先発入りを検討するのがよいのではないでしょうか。

以上3つの懸念事項から、このラストスリーが確約されていないピンチをある意味チャンスに置き換えるべく上記提案をした。更に最悪の事態を想定するとこんな球団事情で宋が移籍する、もしくは渡米するなんてことになってしかもしかもその後大活躍するのではないかと考えるのは私だけではあるまい。イーグルス首脳陣は、今年は熟考してほしい。この豪華な投手陣を決して無駄にしないで各人が最大限活躍できるようにしてこそ優勝の二文字がみえてくるというものだ。

院長ノート 2022年06月01日