イーグルス時評2 #2022.04.13
岸は先発ローテーションに入れない方がよい
ーベテラン先発陣のトリセツー

基本情報
岸孝之 きしたかゆき K―
1984年12月4日生 37歳
身長180cm 体重77kg 公表
投手 右投右打

2006年東北学院大学からドラフト希望入団枠でライオンズ入団。
2007年開幕から先発ローテーション入り。11勝7敗で田中将大に並ぶが新人王は田中に奪われる。
優秀新人賞という特別表彰受賞
2010年までプロ入りから4年連続二桁勝利。
2014年ノーヒットノーラン達成。この頃より故障が多くなる。
2016年イーグルスにFA移籍。
2021年年間先発ローテーションを守り3年ぶりに規定投球回に達する。

因みにイーグルス移籍後の投手成績は
2017年8勝10敗
2018年11勝4敗
2019年3勝5敗
2020年7勝0敗
2021年8勝10敗
となっている。

イーグルスに移籍時点で32歳、この頃既に幾つかの故障を抱えておりピークを越えていた。しかしながらさすがに一流投手は違う。まっすぐの威力は落ちてきていたが、速度差のあるカーブを中心に多彩な変化球とのコンビネーションで低めを丁寧に突く投球は若手投手の見本である。無論まっすぐは衰えたと言うには失礼で今年も145kmまで出ている。今までの最速は152kmと言われている。近年は則本と並ぶイーグルスの二本柱であり田中が復帰した昨年は涌井と合わせて500勝カルテットなどとマスコミを賑わせた。500勝はすごいが実績あるのは既に皆さん御歳では?ということだ。この豪華先発陣をどう1年間使っていくかはイーグルスの重大テーマであろう。昨年は田中を筆頭にうまく機能しなかった。この4人の他に2年目で実力はトップかもしれない早川と、アマ時代実績十分の滝中がローテーションに入る。先発がこれだけ出揃うのは過去にも今年も他球団でもなかなかない布陣なのである。また詳細は別稿になるがさてリリーフ陣は?と見渡してみるとこれまた充実したメンバーに見える。期待通りなら(普通はそうならないものだが)イーグルスは投手陣においては日本一と思えてしまうのは私だけではなく、今年開幕前は評論家の面々も優勝候補筆頭に挙げることが多かった。もちろん優勝するには攻撃陣の健闘がなければならないのだが、こちらの言及はやはり別の機会に譲るが問題点を幾つか抱えるも解消するべく努力してきた様子は十二分に伺える。いえーいやっぱり優勝だ!と言いたくなるがここは再度先発投手陣に抜かりはないか精度高く分析するのがこの時評の役割と思っている。

さて。先発ローテーションの布陣。

順不同だが則本-岸-田中-涌井-滝中-早川の6人が既に確定である。現状では各人大きな故障はなく、今の日本プロ野球では1週間約6試合を6人で回すのが常識であるから間に合っている状態だ。

滝中と早川は20代でフィジカル問題なし。昨年の実績から考えても今後大きな怪我さえなければ1年間ローテーションを守れるでしょう。あとのベテラン勢であるが、則本はこの中ではまだ若く大した故障はないし、田中はフィジカル別格で強靭、これも大丈夫であろう。残りの岸と涌井をどうするかは大きな課題である。どちらも調整能力は高く、1年投げ通すことは可能かもしれない。しかしどちらもアラフォーなんですよね。

特に岸は涌井より年上で今年38歳、先発陣最長年齢である。

岸については、元々ライオンズ時代に痛めた古傷があり、イーグルス移籍後は2019-2020年の故障による長期離脱がある。2020年は怪我から復帰後7勝を挙げており、昨年はなんだかんだで1年間投げ抜いてしまった。石井監督は自分自身が名投手であり、岸とはライオンズ時代からのつきあいだ。岸のアスリートとしての能力の高さや身体管理能力の凄さは一番理解していると言ってもよいでしょう。そして一昨年からの復帰後の活躍を高く評価している。でも、である。これはやはり楽観視してはいけないと思っている。

一昨年と昨年はコロナ禍で延長戦なしという取り決めであった。従って先発は6-7回100球を投げて交代というメジャーリーグ方式の野球が日本においても普通になっていた。岸も例に漏れずその決まりのもとで投げていたのが結果的によかったということである。なら今年も同様でよいではないかという意見があるだろうがそうはいかないと思う。それは

①勿論年々年をとっているので一昨年、昨年より衰えはある。

②今年は延長12回までになった。先発投手は相変わらず100球で原則交代であろうが、延長がある場合はどうしても先発を引っ張りがちになるのが人情だ。

③生で観戦していると昨年くらいから2つ気にかかる点がある。

さあ③であるが、これは観戦記にも記述していることに重なるのだが重要なので再度述べたいと思う。

まず最近の岸は上記100球上限で結果を出しているとはいうものの、スタミナの面では80球程度が限界のようである。それが1年間投げ通して8勝どまりになる原因だ。実際貧打問題があり、そのため勝ち星が付かなかったと言ってもよいが、実のところ、勝負どころ特に80球過ぎてから微妙に小得点されているゲームが多いのである。岸の投球フォームは本来安定度が高いのだが最近は80球以降は上半身が時々開き気味になり、フィニッシュの右手の位置がばらばらだ。手先の器用な岸は思う通りにコントロールできない場合にフィニッシュで手先が投げたい方向に向いている。これはおそらく岸自身が一番に気づいているであろう。

もう1つは若い時からの岸の数少ない欠点であるが、生来の性格に起因すると思われるので修正は不可であろうことだ。元々岸は心優しい誠実な人間なのである。そしてあまり口は達者ではない。それ故困ったことがあってもあまり語らず自分で飲み込んでしまうことが多い。強い緊張を強いられる場面で顔はポーカーフェイスだがかなりの動揺が心中にあり時として連打を浴びることがある。高校野球部時代には既に非凡な才能の片りんを魅せていたのにも関わらず自信をなくし何回か野球をやめようとしたエピソードや2008年のジャイアンツとの日本シリーズでMVPを獲得した際にも登板前に緊張して嘔吐しそうだったということを周辺に漏らしてから投げたという。

2009年当時ライオンズ時代に、イーグルス打線に3者連続HRを浴びたことは鮮烈に覚えている。今年は先日のライオンズ戦でやはり2者連続被弾を受けた。HRではないにせよ連打を浴びやすい時が結構ある。そしてそれも5回以降に圧倒的に多いのである。

そうするとどうしたらよいか。

あらためて本日の題名をみてください。ローテーションに入れない方がよいということだ。早計に先発させるなと言ってるの?と思わないで欲しい。1週1回のローテでは1年間稼働するのはかなり厳しいだろう。でも岸は一流の先発投手である。きちんとゲームを作ることができるので使わない手はないし、実績的にもリリーフ向きではない。これはね是非10日に1回程度で先発させてほしい。もしそれが可能であればスタミナの問題も解消する可能性が高いし、岸なりに現在ある力を全て出し切るように調整してくるはずでその方が結局1年問という中期的なペナント戦略ではお得なように思うのは私だけではないはずである。オリオンズの大エース村田兆治は先発は中4-5日が普通であった時代に晩年「サンデーちょーじ」として日曜日だけに先発して大活躍しファンを喜ばせた。その後もさらに登板間隔を伸ばして先発をし続けた。あの現代版でいくのである。ファンも岸本人も10勝を目標にしているならそのやり方で十分可能な数字だ。石井さんそうではないかなあ。でもそうすると週6人先発はぴったりではなくなるので誰か先発に持ってこないといけないが、そのデメリットを十分補うだけのことはある。若手育成枠も必要だ。因みに涌井については似た状況ではあるが可能なら週1回登板でよいと考える。その辺りは次回以降の展開で!

院長ノート 2022年04月13日